読み上げる

「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」について
〜平成28年2月29日 文化審議会国語分科会報告〜

文化庁文化部国語課

去る2月29日、文化審議会国語分科会が「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を取りまとめました。ここでは指針の概要を紹介します。

「指針」の狙い
この指針は、国が社会生活における漢字使用の目安として示している「常用漢字表」の「字体についての解説」の内容を、より具体的に説明したものです。常用漢字表は、昭和56年に内閣告示として実施されてから、平成22年の改定を経た後も、手書き文字と印刷文字の関係について、主に次の2点を説明してきました。
@手書きの文字の字形と明朝体に代表される印刷文字の字形とでは、両者が別々の発展を遂げてきた結果、表し方に習慣の違いがある。
A手書きされた文字は多様な形として表れるものであり、その字が有すべき骨組みが認められる場合には、細かな部分の差異によって、それを誤っていると考える必要はない。
こうした考え方は、昭和24年に「当用漢字字体表」が現在の漢字の字体を定めたときから一貫して示されてきましたが、社会に十分には浸透してきませんでした。このことをもっと分かりやすく、具体的に周知するために「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が作成されました。

「令」か「令」か
では、実際にはどのようなことが問題になっているのでしょうか。一つは、手書き文字と印刷文字の表現の違いが理解しにくくなっているという点です。
例えば、「命令」の「令」という字は、明朝体では「令」の形で表されます。しかし、小学校の教科書には「令」の形が用いられ、手で書くときにもこの形を覚えます。「令」と「令」とは同じ漢字であって、両者の違いは手書きと印刷文字の習慣の違いによるものに過ぎません。(小学校の教科書に用いられる印刷文字(いわゆる教科書体)は、手書きの楷書に基づいてデザインされています。)しかし、金融機関等の窓口で、「令子」さんや「鈴木」さんが、手書きの習慣である「令」の形で記名すると、明朝体の形に合わせて書き直すように指示されるといったことが起きています。常用漢字表がどちらの書き方もできることを図1のように示しているとおり、本来、書き直す必要はないのです。

「木」の縦画を、はねるか、とめるか。
もう一つの問題は、近年、漢字の細部の違いに着目し、それによって正誤が決められる傾向がある、という点です。
例えば、「木」という字を手書きするときに、縦画をはねるでしょうか、とめるでしょうか。図2を御覧ください。常用漢字表の「字体についての解説」では、どちらの書き方もあることが明示されています。しかし、平成27年の2月に実施した「国語に関する世論調査」では、とめる形だけが適切であると考える人が65.0%、はねる形だけが適切であると考える人が20.2%という結果でした。とめ・はねなどの細かな部分についての意識は、人によって違う場合があります。文字の骨組みが認められれば、はねているかとめているかは、正誤に関わらないというのが常用漢字表の考え方です。「木」という漢字は、印刷文字においてはとめて表されるのが一般的ですが、手書きにおいては、筆勢からしても、はねて書かれるのは自然なことであり、書写の手本などにも両方の形が見られます。特に、不特定多数の人々を対象とするような入学試験、採用試験、各種の検定試験等においては、常用漢字表の考え方に基づく評価が求められます。
ただし、教育の現場においては「どちらでも良い。」といった指導が難しい場合もあります。指導の場面や状況によっては、指導した字形に沿った評価が行われる必要もあることを踏まえた上で、柔軟な評価を行うことが期待されています。

「右」の「口」は「ノ」に接触するか
なお、細部に注目する傾向は、図3に示すような違いによって正誤を判断するという認識にまで進んでしまう場合があります。文化庁国語課には「右」という字の「口」と「ノ」の部分は接触するのかしないのか、「困」という字の「木」は「くにがまえ」に接触するのかしないのか、といった質問が寄せられることもあります。しかし、そのような違いは、いずれも正誤の判断には関わりません。図3に挙げた印刷文字は、それぞれ実際の教科書に用いられているものです。どちらかだけが正しいと考える必要はないのです。
情報化の進展によって、ふだんから印刷文字(情報機器のモニターに映し出される字を含む。)を見る機会の方が多くなっています。ここまで取り上げてきた事例は、文字を手書きする機会や手書きされた文字を読む機会が減ったために起きているものとも考えられます。
「常用漢字表の字体・字形に関する指針」はこのような問題を国語施策の課題として捉え、その改善を図るものであり、一般の社会生活において、文字をより適切に、積極的に運用するために活用されることを目指して検討されてきました。

「指針」の特徴
約240ページにわたるこの指針の特徴としてまず挙げられるのは、第3章「字体・字形に関するQ&A」です。この問答形式での説明を読めば、指針の内容を大体のことが理解できるよう、次に例示した問いをはじめ、全78問が用意されています。
Q5漢字の「字体」、「字形」とは、それぞれ、どのようなもので、両者にはどのような違いがあるのですか。常用漢字表の考え方を説明してください。
Q26児童が漢字の書き取りテストで、教科書の字とは違うものの「字体についての解説」では認められている形の字を書いてきました。このような場合は、正答として認めるべきなのでしょうか。
Q43「女」という漢字の2画目は、3画目の横画よりも上に出ない形で書くようにと学校で習ったのですが、その書き方を間違いだという人もいます。どちらが正しいのでしょうか。

また、実用的に指針を使っていただけるように、常用漢字表の2136字全てについて、具体的な印刷文字と手書き文字の例を掲げた「字形比較表」が示されています(図4)。常用漢字表の通用字体を筆頭に、ゴシック体、教科書体などの印刷文字を並べて示した上で、手書きの楷書文字を2〜3ずつ例示しました。手書き文字は、骨組みがしっかりしていれば、多様な形で表されてよいことが分かるように、工夫を凝らして書かれています。

漢字の文化を知るために
漢字の字体・字形は、それぞれの人が子供の頃に習った形や、見慣れてきたものを正しいと感じる傾向があり、近年、印刷文字のとおりに書くべきであるという意識も広がっています。しかし、特に、手書き文字は、本来いろいろな形で書かれる多様なものです。そうした漢字の文化について考える機会として、また、国語に関する基礎的な知識の一つとして、この指針を活用していただきたいと思います。
「常用漢字表の字体・字形に関する指針」は、文化庁ウェブサイトで御覧になれます。
(http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf)
また、書籍としても出版されています。

 

<音声トップページへ戻る>